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東京高等裁判所 昭和24年(新を)748号 判決 1950年11月30日

被告人

長沢三郎

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人渡辺御千夫の控訴趣意第三点について。

(イ)  記録によると論旨の指摘するように原審第一回乃至第三回公判調書の沼津支部書記官補名下及び調書の契印に沼津区裁判所書記印が捺印せられている。よつてその適否を検討する。従来地方裁判所支部の書記の職印というものはなく、区裁判所の書記が支部書記を兼任しているので、明治二十三年十月十五日司法省訓令によつて「支部書記は区書記印を用ゆ」ることになつていた。明治三十二年十一月司法省の通牒でもこれを確認した。その後裁判所構成法が廃止せられ、裁判所法が施行せられるようになつてから支部の書記官印も別に調製する方針であり、昭和二十四年六月二十九日附最高裁判所からの通牒によつて、支部書記官(書記官補)の印の調製が命ぜられたが、当分の間従前の裁判所書記印を使用しても差支ないことになつているのである。故にこれによると地方裁判所支部の書記官及び書記官補は従前使用していた区裁判所書記印を使用しても差支ないのである。即ち従前の区裁判所書記印は地方裁判所支部書記官(又は書記官補)の公認の職印なのである。但し一旦正式の支部書記官(又は書記官補)の職印も調製して後は、従前使用して来た区裁判所書記印は廃印となつたものであるから、これを使用すれば違法と認むべきであるが、本件では左様な形跡は認められない。昭和二十四年十月二十五日の第六回公判の時に新印が調製せられたので以来これを使用したものと思われる。右原審の第一回乃至第五回の公判調書には違法の点はない。論旨は理由がない。

同論旨第四点(及び訂正申告書の論旨)について。

(ロ)  記録によると、本件第一回公判期日は昭和二十四年七月一日と指定せられその召喚状は、同年六月三十日被告人に送達せられているから刑事訴訟規則第一七九條第二項所定の五日猶予期間を存置しなかつたことは、論旨の指摘する通りである。しかしながら、右猶予期間の規定は専ら被告人の利益のための規定であるから被告人においてこれを放棄することは許さるべきであり、又時には一日も早く裁判を受けることは、被告人の利益に合致することもあるのである。故に同規則第一七九條第二項は被告人に異議ないときは右猶予期間を存置せんでもよいことになつている。そして右異議を申立てるとすれば事の性質上、第一回公判の開かれる迄になすべきものであるが、本件記録によると被告人は右猶予期間の不存置に関し何等異議を述べていないから、所謂責問権の放棄によつて右違法は茲に治癒せられたものと認むべきである。刑事訴訟規則第一五九條第二項には裁判長必要と認めるときは被告人に対し、被告人が充分理解してないと思料される被告人保護のための権利を説明しなければならない旨規定しているが、右被告人保護のための権利というのは所謂冒頭手続以後に行われる手続に関する被告人の権利を意味するもので、冐頭手続より前になされるべき猶予期間不存置を責問する権利を含むかどうかは疑問であるが、しかし規則の精神を拡充するならば右の場合裁判長は公判を開く前において必要と認めるときは、右被告人の右責問権について説明することは望ましいことである。しかし第一回公判には被告人の外之の権利を主張し、その利益を弁護することを任務とする弁護人岩林渉、同渡辺御千夫が出頭しているのであるから裁判所は特に右の点について説明する必要を認めなかつたものと思われる。原審が敢て右猶予期間不存置について被告人に注意を与えなかつたについて違法の措置はない。論旨は理由がない。

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